NOVEL
□‡月下のワルツ‡<後編>
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心臓が跳ねる。それに合わせて目の前のものが幾重にも重なる。
「ケン君、伊藤さんを連れて逃げて…っ!」
オミが声を張り上げ応戦しながら指示をとばす。
「わかった!!」
ケンは立ち上がり良の手を引こうとした。が、良の異変に眉を寄せる。
「伊藤…さん?」
しかし、問掛ける時間など 今はない。
「はやくしろ!」
アヤの怒声にケンは良の腕を引く。
「伊藤さんっ!」
良はびくりと身を震わせケンの背を見た。
その視界の端に黒くうごめくものを捕える。
生きる者の本能が、
危険を叫ぶ。
良はケンを抱き締め路上を転がった。それを追う様に敵の弾丸が飛ぶ。その瞬間、弾けた様に体が反応して俊敏な動きになる。
良は自分の腕時計に手を伸ばす。
それに隠された、ある秘密を呼び起こすために。
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