■夢見処■

□骨折り花
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「ミツ姉さん。」


今は私以外誰もいなかったはずなのに。
幼い声が釜の熱気が籠もる台所に響いた。

呼ばれた先に目をやると
半分開いた状態の引き戸。

戸の間からは
身体を隠すようにしてひょっこり顔だけ覗かせる子供が見えた。


末の弟、総司だった。


親子と間違えられることも少なくない程歳の離れた弟。

今日も昼から遊びに出たきり。
それが彼にとっての日課だった。


「あら早かったのね総司、お帰りなさい。」


未だ当分遊びから戻っては来ないと思ってたのに。


珍しく帰りが早いと思った、だが
私が感じた違和感はそれだけでなかった。


「どうしたの?
さては…何か隠してるでしょう?」


未だに顔を覗かせただけの不自然な弟を見て
母親代わりの姉は直感的に悟った。

総司がこんな仕草を見せるときは決まって
何から話すべきか悩んでいる時だ。


それは大抵
はしゃぎ廻って障子に穴を空けたり
枝に袖を引っ掛けて破いてしまった後だったりする。


私の問い掛けに
総司はハッとする素振りを見せた。


「姉さんはやっぱり凄いや!
どうして隠してるってわかっちゃうの?!」


総司はくりくりした瞳を輝かせて言う。

素直に喜び感心する弟を見て
やはり、と肩を落とした。


「凄い、ではないでしょう?
正直に言いなさ…」

「はい、これ!ミツ姉さんに!」


引き戸の影から飛び出すのと同じくして。
まんべんの笑みで総司は握り締めた両手を私の方へ突き出した。

それを見て
今度は私が目を丸くする。
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