■夢見処■

□君に還る
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梅に木蓮、沈丁花。

どれも香しい薫りを放つそれらは

まるまると満ちた明かりに照らされ
冷たい夜道を彩る。


頭上を大きな雲が横切ると
辺りは一変し、暗闇に包まれた。


一筋の光すら届かぬ闇
底知れぬ漆黒の世界


気を確かに保たないと
闇に溶け込んでしまいそうだ。


そう、それは
以前にも感じたことがある感覚…


思い出そうなんて意識は微塵もない。
一時だって忘れたことはないのだから。

瞼も閉じていないというのに
あの光景は鮮明に
私の眼前に表れる。





「最後の我が儘、聞いてくれる?」

「最後なら聞きません。」


私はあと少しでも気を許したら
震えてしまい兼ねない声を
なんとか気丈に振る舞った。


「こんな時だって言うのに、
僕の奥さんは相変わらず厳しいなぁ。」


総司さんは
お世辞にも顔色が良いとは言えないその顔で
口の端を上げる。


もう何度見たかわからない。
貴方のその困ったような笑顔が好きだった。


あと何度見れるか、
…わからない。
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